魔法の杖の作り方・感想
魔法の杖の作り方、という作品がある。
カクヨムで連載されていた作品で、作者はCATさん(@popncat)
魔法の杖の作り方
内容を簡単に説明すると、
細工師見習いの職を失った少年が、魔法の杖に魅せられ、
様々な偶然からその杖を作った魔女の弟子となって自らも杖を作り始める、
という話である。
このあらすじからもわかるように、話自体はとてもゆったりとした、悪い言葉でいえば地味なものである。
特に杖を作っているだけの序盤はそうだ。
しかしその中に描かれるのは、ものを作ることの苦労と喜びである。
主人公である少年、ラストの一人称で描かれる杖ができるまで地味な作業を積み重ねていく。
それを師匠である『魔女』のアイーダが、彼の間違いを見抜き、道を示唆する。
曰く
「ならば習わなかったか? わけもわからずに、なんとなく上手くいってしまう方が良くない。後から間違い始めても気がつかなくなる」
「何を目当てに作っても、そんな事は作るものの出来には関わらない。作ろうという気持ちが続くかどうかの方がよほど大事だ」
「……最初から楽な道を探し始めるのはただの横着だが、私の目から見てもお前は十分な努力をしている」
こういった言葉で時に優しく、時に厳しく、しかし概ねぶっきらぼうな感じでラストを導くのである。
そしてラスト少年は地道に手順を覚え、やがて杖は一つの形になる。
それが誰かに認められる。その繰り返しである。
しかしその繰り返しこそが、物を作るという事の本質であり、それを実に丁寧に、かつ魅力的に書いているのがこの魔法の杖の作り方なのである。
一方、そんな物作りと同時に進行していくのが、魔法の普及によって変わりつつある世界、そして町である。
それがやがて意外な形でラストとアイーダに結びつき、大きな波乱と終局へとつながっていくことになる。
そのキーとなる人物がガーランド。魔法と魔法の杖を世界に普及させた人物であり、
魔女アイーダとも深い因縁を持つ人物でもある。
彼がどのように物語に関わってくるかはネタバレもあるので作品を読んでもらうとして、
彼が強く関わるようになると、作品内の空気も大きく変化し始める。
それは魔女についての物語である。
しかしそれと同時に、その根底に流れるのは作ったものに対する責任であるように思える。
アイーダの取った行動や、ガーランドとの決着の際のラストの言葉。
そしてラストが物語の最後に選んだ道。
そのどれもが、杖を作った者だからこそ取る行動のように思えるのだ。
杖を作り、杖が使われ、社会と関わり、世界を変える。
そしてそれは杖ほど劇的でなくても、どこにでも有り得る話である。
この魔法の杖の作り方という物語は、そういった当たり前だが気付かないことの詰まった作品なのである。
皆さんも一度読んでいただきたい。